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お知らせ

2022/11/17

繁殖期の歌うザトウクジラの出現の周期性に潮汐変動が影響していることを明らかに

小笠原諸島沿岸域には、毎年冬から春(12~5月)にかけて、ヒゲクジラ類の一種であるザトウクジラが繁殖のために来遊します。

ザトウクジラのオスは、繁殖期に規則的な旋律を持った鳴音(歌;ソング)を盛んに発することが知られています。

2016~2018年の冬から春にかけて、小笠原諸島父島の沿岸海域に複数の水中音録音装置を設置し、歌を歌うオスのザトウクジラ(シンガー)の出現傾向を調べました。

その結果、父島の東西沿岸海域では、シンガーの出現が2月に最盛期を迎え、一日の中でも明け方や夕方の遅い時間に多く出現し、昼間は減少することが明らかとなりました。

また、西側沿岸海域では、潮汐変動に伴いシンガーの出現傾向に変化が見られることが明らかとなり、上げ潮時にはシンガーが増加し、下げ潮時に減少することが示されました。その差は、特に潮汐変動が大きくなる大潮の時に顕著に確認されました。

歌の機能の一つが他のクジラへのアピールである場合、安定した場所で歌う方が効果的であると考えられます。繁殖期のオスのザトウクジラは、潮流の強さや方向に応じて行動パターンや歌う場所を変化させるといった戦略をとっているのかもしれません。

なお、本研究では、歌っているオスのクジラのみが観察対象となっており、歌っていないオスのクジラ、メスや仔クジラについては調べることができていません。今後、すべての年齢、性別の個体についても調べていくことで、繁殖期におけるザトウクジラの行動パターンをより詳しく理解することができると考えられます。

本研究成果は、2022年11月16日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。

本研究で使用したデータの一部は、日本財団の助成を受けて実施された 一般財団法人日本船舶技術研究協会による2015~2017年度水中騒音プロジェクトにおいて取得されました。また、本研究は日本科学協会笹川科学研究助成と京都大学野生動物研究センター共同研究助成を受けて実施されました。

〇本研究のポイント

・沿岸域に生息する多くの海洋生物は、季節や日周サイクルの他、潮汐サイクルと関連した行動パターンをもつことが知られているが、潮汐に関連した大型海棲哺乳類の行動において、餌生物を介さない行動はほとんど報告されていない。

・小笠原諸島父島沿岸域において、複数の設置型の水中音録音装置を用いた24時間連続的かつ長期的な観測により、繁殖期におけるオスのザトウクジラが発する歌声の数や、歌っている個体数の周期的変動を調べた。

・ザトウクジラのシンガーの出現傾向に3つの周期性(季節性、日周性、潮汐サイクル)があることを確認した。

・繁殖期のオスのザトウクジラは、潮流の強さや方向に応じて行動パターンや歌う場所を変化させるといった戦略をとっている可能性が示された。

〇発表論文

【雑誌名】
・Scientific Reports(2022年11月16日)

【著者名】
・辻井浩希(一般社団法人小笠原ホールウォッチング協会、北海道大学大学院環境科学院)
・赤松友成(公益財団法人笹川平和財団海洋政策研究所)
・岡本亮介(東京海洋大学)
・森恭一(帝京科学大学)
・三谷曜子(京都大学野生動物研究センター)

【タイトル】
・Tidal effects on periodical variations in the occurrence of singing humpback whales in coastal waters of Chichijima Island, Ogasawara, Japan
(小笠原諸島父島沿岸海域における歌うザトウクジラの出現の周期的変動への潮汐影響)

【URL】
https://doi.org/10.1038/s41598-022-24162-0

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